高レベル放射性廃棄物処分場の選定は国会で透明性のある議論を!

齋藤伸三 2017/8/6
はじめに
 7月28日に経済産業省は高レベル放射性廃棄物の最終処分場の建設候補となり得る地域を示した全国地図「科学的特性マップ」を公表した。今後、複数箇所(3~5カ所と予想)の候補地に絞り込み、それらの地域において詳細な調査を行い最終処分地を確定することになろうが、候補地の決め方や手順は難航が予想される。 

1.最終処分問題はどのように扱われてきたか

わが国における高レベル放射性廃棄物の処分について、原子力委員会の「原子力の研究、開発および利用に関する長期計画」(原子力長計)を見ると、初めて、「放射性廃棄物の処理、処分」の項目が設けられたのは第3回(1967年)であり、1975年に発効した「廃棄物その他の物体の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンドン条約)」によって海洋投棄が規制された後、原子力委員会は、1976年に地層処分の方向性を示し、以来、安定な形態に固化した後,30年間から50年間程度冷却のための貯蔵を行い,その後,地下数百メートルより深い地層中に処分することを基本的な方針とした。
 原子力委員会は、第8回(1995年6月)原子力長計における「高レベル放射性廃棄物の処分方策を進めていくに当たっては、国は処分が適切かつ確実に行われることに対して責任を負うとともに,処分の円滑な推進のために必要な施策を策定する。」を受けて同年9月に「高レベル放射性廃棄物処分懇談会」および「原子力バックエンド対策専門部会」を設置した。「処分懇談会」では、高レベル放射性廃棄物処分の円滑な実施への具体的な取組に向けた国民の理解と納得が得られるよう社会的・経済的側面を含め幅広い検討をし、「対策専門部会」では高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究開発計画の策定等処理処分に係る技術的事項等について調査、審議を実施した。しかし、地層処分場の確保のために国が前面に立つとはしなかった。

そして、2000年6月には高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する法律「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(最終処分法)が制定され、実施主体「原子力発電環境整備機構(NUMO)」が設立されるとともに、最終処分費積立制度が設けられた。NUMOは、平成40年代後半を目途に最終処分の開始を目指し、最終処分法に基づき、文献調査、概要調査、精密調査の3段階の処分地選定調査の第1段階の文献調査を受け入れる自治体を2002年から公募してきた。また、国は文献調査や概要調査を受け入れた市町村等を対象に電源立地地域対策交付金(現在、文献調査に対して10億円/年、最大20億円)を交付することとした。2007年には、高知県東洋町が一度文献調査へ応募したが、その後、町長選を経て取り下げられ,その他にもいくつかの市町村において首長あるいは議員等で文献調査への応募が検討されたことはあったが、住民、知事、隣接市町村の反対にあって現在に至るまで処分地選定調査のための文献調査さえ着手できていない。交付金は、当初1億円であったが、国は何とかしようと10億円に引き上げた。しかし、交付金の額で片付く話ではなく、住民に処分場の安全確保策が納得され、リスクは十分に低いことが理解されないなかでの交付金による利益供与は、かえって信頼の低下を招く可能性があるのではなかろうか。

2.海外の例と近年の行政庁の取り組み

最終処分地が確定し事業が進んでいる国は、使用済燃料を直接処分するフィンランド、スウェーデンであり、続く国としては再処理後の高レベル放射性

廃棄物を処分するフランスが挙げられよう。フィンランド、スウェーデンは、それぞれ人口は530万人、910万人と1000万人以下であり、国土面積は日本とほぼ同等もしくは1.2倍である。したがって、人口密集地を回避して科学的、社会的観点から処分に適した候補地を複数探し、絞り込む作業は、それほど困難ではなく、また、国民、候補地となった地域自治体、住民との対話も比較的円滑に行われてきたと言えよう。事実、フィンランドの最終処分地であるオルキオトの住民から将来の雇用確保と国への貢献という観点から受け入れたと淡々と聞かされた。

 人口が約6,500万人のフランスは、多くの国民を抱えており、1980 年代から政府が立地可能性調査のために地質調査を4 つの県で開始したものの、事前通知・協議を行わなかったために反対運動により中断した経験を持ち、容易に国民の理解を得てまとめられないと言う意味では、わが国にとって大いに参考になると考えられる。フランスでは、議会において、バタイユ議員を中心に検討し提出された調査・提案を経て地層処分を含む3 つの管理方法の研究、公開・透明・民主的なプロセスを規定した放射性廃棄物管理研究法(1991 年法)が成立した。詳細は省略するが、15年を経て2006 年に放射性廃棄物等管理計画法(2006 年法)が制定された。両法に従って処分地の選定を行い、2015 年に処分場の設置許可申請、2025 年に操業開始できるよう進められている。

北欧2か国の科学的な調査・検討、フランスの国民、住民への透明性ある説明、コミュニケーション等参考にするところは多い。

経済産業省は2013年11月に、高レベル放射性廃棄物の地層処分に適した場所を科学的に選定する作業、具体的には、本格的な議論に入っていた地層処分技術の作業部会が候補地を科学的に絞りこむ作業を担うこととした。ここで、科学的に有望な地域としては、地温の低さ、地下水の流れが緩慢、地下深部が酸性環境でない、火山活動の影響を受けない範囲である他、長期安定性に関連する天然現象として地震、断層活動、火山・火成活動、隆起、沈降、侵食、気候、海水準変動等を調査、検討の対象としている。一方、国は、2013年12月に関係行政機関の緊密な連携の下、最終処分を総合的に検討することを目的として、官房長官、経済産業大臣、総務大臣、文部科学大臣、内閣府特命担当大臣(科学技術政策)からなる最終処分関係閣僚会議を創設し、取り組みの見直しに着手した。 新たな基本方針(閣議決定)として、・現世代の責任として、地層処分に向けた取組の推進 ・処分実現が社会全体の利益であるとの国民的な認識共有・自治体との丁寧な対話 ・国による科学的有望地の提示 ・国、NUMO(危機感が欠如していると指摘された)の信頼性確保のために、原子力委員会による継続的な評価の実施等である。これを機に、全国をブロックに分けたシンポジウムの開催、全国対話月間における活動、全国知事会議における説明等が積極的に実施されるようになった。

そして、今回、経済産業省が最終処分場の建設候補となり得る地域を、スウェーデンの例に倣って全国地図に示した。 

3.高レベル放射性廃棄物場の選定は国会で透明性のある公平な議論を

最終処分場の建設候補となる地域は自治体数としては、900に及ぶと言われている。今後、複数箇所の候補地に絞り込み、それらの地域において詳細な調査を実施して最終処分地を確定することになろうが、複数の候補地の決め方や手順、また、将来でもよいが、複数から一つに絞る判断基準は予め決めておくことが極めて重要であり、これを怠ると後々紛糾の基となる。さらに、これらの議論の過程は、判断に供する資料も含めて公開されねばならない。そのためには、一行政庁内での審議とせず、また、国民が関心を有する課題、国民に理解して貰いたい問題は、ホームページを見れば情報は入手出来ると言うのではなく、報道機関等を通じて可能な限り時間をおかずに国民に伝わるようにすることが望ましい。また、そのプロセスを通じて、国民が理解を深め、徒に風評を信ずることもなくなる。このためには、国民の選良で構成される国会において与野党が率直に透明性を持って議論することが最良であろう。また、テレビ、新聞等の報道機関は、国会における審議の模様を広く、誠実に国民に伝える努力をすることが望まれる。すなわち、国会で審議を必要とする理由は、

①  与野党を問わず、全議員が放射性廃棄物の地層処分を国家的な問題として捉え、必要な立法措置を含め、その解決に一致協力し最終処分場の確保に当たることが国民全体に訴える唯一の方法である。そのプロセスは、フランスの例が参考となろう。これにより、国民は放射性廃棄物問題が国家的な重要課題であることを認識する。
②  知事はじめ地方自治体の長、各自治体も他人事とせず、真剣に本腰を入れて取り組む基盤となる。
③  国民が放射性廃棄物の処分は、国民全体の問題であり、現世代の自らが解決しなければならないことを認識する土俵作りとなる。

 

国会では、委員会で審議することになろうが、審議すべきことを列挙すると以下の項目が考えられる。

①  まず、高レベル放射性廃棄物の処分は、将来世代に先送りをせず、原子力発電の恩恵を受けた現世代の責任で解決しなければならない課題であることを確認する。このことを国民に訴え、理解促進に努めることを政党間で共有する。この際、今後は脱原発を主張する政党も出てくることは十分に予想される。わが国の将来のエネルギーをどうするか真剣に議論すればよい。単純に、脱原発、再生可能エネルギーの導入で済む話ではない。信用できる確実な代替策の提示が大前提であり、国民が納得できるものでなければならず、国民も選択したことに責任を負うことを自覚しなければならない。また、この問題は、議員ひとり一人にとっても同じ認識を共有することが重要であり、原子力は票にならない、票を減らすと言う観念は許されないことを共通認識とし、議員は等しく貢献することを確認する。
②  最終処分場の建設候補となっている900の自治体から複数箇所の候補地に絞り込む手順と決め方を予め定める。これは極めて重要なプロセスであり、以後紛糾しないように国民を含め全てのステークホルダーのコンセンサスを得ておくことである。建設候補となる地域の摘出過程において科学的観点から評価した項目ごとに詳細な点数付けをし総合点を数値化するのか、人口密集地(定義を明確にする)は対象から外す、処分場となる土地は確保できるか、近くの港までのルートは橋梁の補強、歩道橋の一次撤去等に関し困難な課題はなく確保されるか等社会的要因として何を考慮するか、原子力発電所の立地地域(市町村単位または道県単位)は選考対象から外すか等々協議し決定して置かねばならないことは山ほどある。さらに、処分場の安全性とリスクの問題がある。事業者による説明に偏らず、原子力規制委員会も地層処分に関する安全規制の考え方を中立的な立場から厳正に具体的に詰めておくことが求められる。
③  最終処分地となる自治体に対する地域振興、住民の雇用確保・創出、生活の維持・向上等について何を提示出来るかもオープンな場で決めておく。この場合、隣接市町村への対価も考慮する必要がある。従来の交付金制度は、ある種単に金を積めば済むとの考えは反発を招き、住民を二分する要因とならなかったか反省する必要がある。一方、このような議論を通じて国民が最終処分場を引き受ける自治体や原子力発電所立地地域に敬意と感謝の念を持ち協力の精神を涵養することは大切である。

これらの課題に対する知事、自治体の役割も大きい。これまでの説明に対し、自治体の首長の中には、国の責任として当然やらなければいけないステップと捉えつつ、調査の受入とは全く別のもの、決める決めないとは別の次元と受け取ってきたようであるが、国全体で考え対応すべき課題であり、自らもその一員であるとの自覚を持つことが求められる。

なお、高レベル放射性廃棄物の処分までには長期間を要するので、使用済燃料の原子力発電所サイト内での乾式貯蔵も含め中間貯蔵について事業者任せにするのではなく、国の方針を確立し対応しておかねばならない。この問題は、静岡県知事を除いて、原子力発電所所在の道県知事は使用済燃料および放射性廃棄物の早期の県外搬出を強く求めている。静岡県知事は浜岡原子力発電所の再稼働について前向きの姿勢を示していないが、すべての放射性廃棄物をサイト内で処分することを提案(東京新聞、2016.5.25)している。高レベル放射性廃棄物まで各サイトで処分するのは少なくとも経済的であるとは到底思わないが、知事の間での活発な議論は歓迎される。

さらに、経済産業省等関係機関は、最近、国民、住民に対し最終処分場の必要性、科学的有望地の判断基準等を分かりやすく伝え、理解促進に努めているが、継続して実施するとともに、積極的に国民の意見を聴き、国会等における審議に資することが大切である。また、今回の処分場候補となり得る地域の公表をテレビ各局、新聞各社が一斉に報道したことによって国民の関心を大いに喚起したことは正にメディアの威力であり、引き続き、放射性廃棄物の処分は将来世代に負担を先送りせず現世代の責任で取り組むべきことであることを着実に繰り返し国民に伝えることを期待したい。その上で、国会における議論、審議の進展状況等を誠実に報道し、常に国民が本課題に関心を持ち、理解を深めるように努めて欲しい。

いずれにしても、国民並びに処分場の立地地域および隣接市町村の住民の理解を得て最終処分場を選定するためには、国会における透明性のある公平な審議が大前提となり、これなくしては処分場の確保は望めないであろう。