2017.2.16 小野章昌

IEA「世界エネルギー見通し2016」から見る再生可能エネルギーと
シェール資源の限界

国際エネルギー機関(IEA)の最新レポート「世界エネルギー見通し2016」は将来のエネルギー問題について多くのことを示唆している。紙背に徹してレポートを読むと次のような結論が得られるであろう。

パートI 地球温暖化は避けられない

1.    約束草案の実態
 パリ協定に従い各国が約束草案を提出しているが、それらをすべて合わせてもCO2排出量は増え続け、温暖化が大きく進む。下記図1はIEAホームページで今回の「世界エネルギー見通し2016」を紹介する案内文に記載されているグラフであるが、温暖化を2℃以内に抑えるためのシナリオと約束草案に基づく排出予想の間には大きな乖離があることが分かる。

図1 約束草案内容は2℃目標とかけ離れている

 注)上部の赤い曲線が約束草案に基づくCO2排出量、白い曲線が2℃シナリオ(2100年の排出量ゼロ)

2.温暖化対策には「450シナリオ」が必要:しかし実現は絶望的に困難
 IEAは本レポートで「新政策シナリオ」(各国の約束草案を加味して2040年までのエネルギー需給を展望したフォアキャスト手法による予測)と「450シナリオ」(温暖化を2℃以内に抑えるために2100年の排出量ゼロを目標とし、その目標からバックキャスト手法により作成した予測:大気中のCO2濃度を450ppmに収めることから450シナリオと呼ぶ)を作成している。新政策シナリオではCO2排出量が2040年まで引続いて増大し、温度上昇も2100年には2.7℃が見込まれる。したがって新政策シナリオから450シナリオへと大幅なCO2削減が求められる。
 CO2の年間排出量で見ると、2040年時点で新政策シナリオの360億トンから450シナリオの180億トンまで半減させる必要があり、その半減を担う2つの大きな柱として「省エネ(Efficiency)」と「再生可能エネルギー(Renewables)」を挙げている(図2)。

図2 450シナリオのCO2削減手段

 

筆者(小野)検証:

目標から逆算して削減手段とスケジュールを描くという450シナリオで採用されているバックキャスト手法は分かるものの、実際に達成できるかというと甚だ疑問である。まず最初に「省エネ」が挙げられる。経済成長とエネルギー消費の相関関係を断ち切って、経済成長を果たしながらエネルギー消費を減らして行くということは先進国でも果たし得ていない。ましてや将来の世界では、新興国の中国やインドがメインプレイヤーとなってエネルギー消費を拡大し、中東や東南アジア諸国が追随すること(図3参照)、電気のない生活をしている12億の民や薪などの固体バイオ燃料に調理や暖房を依存している40億の民が石油やガスなどのエネルギーを必要としていることから見て、世界各国が経済成長を果たしながらこのように大幅な省エネを果たすことは実際には無理である。

次に同じような削減率を担わされている再生可能エネルギーであるが、今後は太陽光・風力に依存する割合を大幅に増やすことが想定されているものの、後述するように技術的・経済的困難が表面化して来よう。CCS(炭酸ガス回収貯蔵)も貯蔵場所の確保やCO2の回収・輸送・貯蔵に要するエネルギー投入と所要コストの面からその適用には大きな制限が生じよう。残るは原子力であるが、後進国にもあまねく行き渡らせることには自ずと限度があろう。このように450シナリオは八方塞がりの状態と言えよう。

図3 新政策シナリオにおける世界一次エネルギー需要予測

 注)新政策シナリオは約束草案を踏まえた将来のエネルギー・シナリオであり、最も 実際に近いものと言えよう。グラフに見るように、インド、中国、中東などの新興国・後進国の消費増大は大きなものがある。