第174回エネルギー問題に発言する会座談会議事録(案)

2017.2.16 河原暲

 

日時 場所:  平成29年2月16日(木) 16:10〜17:30  @ JANSI 会議室

座談会演題:  IEA世界エネルギー見通し2016から見る再生可能エネルギーとシェール資源の限界

講師   :   小野章昌 氏

座長   :  早野睦彦 氏

参加者  :  会員約40名

講演資料  ;    演題と同一名のもの

  

1. 座談会要旨: 

  国際エネルギー機関(IEA)の最新レポート「世界エネルギー見通し2016」は、「新政策シナリオ」(パリ協定に基づいて各国が提出した約束草案を加味して2040年までのエネルギー需要を展望したフォアキャスト手法による予測)と「450シナリオ(温暖化を2℃以内に抑えるための2100年のCO2排出量ゼロを目標としたバックキャスト手法による予測/大気中CO2濃度450ppm(2040年目標))」他を報告している。本座談会では本レポートの骨子に関する説明とこれら諸問題に関する講師の知見または見解が説明され、活発な議論がなされた。

2. 講演概要

 講演は下記する3つのパートに整理されてなされた。○印は講師の知見または見解である。

パートⅠ;「地球温暖化は避けられない」

  パートⅡ;「太陽光・風力発電の限度」

  パートⅢ;「シェール資源の限度」

 2.1 パートⅠ;「地球温暖化は避けられない」

  「新政策シナリオ」ではCO2排出量は増え続け2040年ベースで360億トンと増大し、温度上

昇も2100年には2.7℃が見込まれる。温暖化対策には「450シナリオ」が必要で、2040年ベー

スでCO2排出量を半減(180億トン)とするために省エネ、再生可能エネルギー、原子力、CCSを導入するシナリオとしている。

  〇省エネは先進国でも経済成長の犠牲なしには達成不能であり、中国、インド、東南アジア

   他の新興国でも同様。また、現在も電気のない国民12億人の存在、現時点では固体バイオ

   燃料に頼る40億人の存在などを考えると達成には困難を伴う。

  ○再生可能エネ、原子力、CCSの導入には限界が有る。

 

 2.2パートⅡ;「太陽光・風力発電の限度」

  (1)太陽光・風力などの変動電源は全電力に占める割合がある程度(レポートでは25%)を超えると、それを緩和する新しい仕組み(電力貯蔵とデマンドレスポンス)が必要になるが、それでも太陽光・風力の運転を抑制する時間帯が残るとの分析結果が示されている。

○太陽光・風力の特性として、本レポートには希薄性、変動性、余剰性に関する課題と対策

の指摘がある。特に余剰性に関しては余剰時の対策は明記されているが、天候不順時に電力

が不足した時の問題点等への解決策が言及されていない。原子力などと同一の設備容量を得

るためには、風力の場合は2〜4倍、太陽光の場合は4〜8倍の設備量が必要と考えられている。

  (2)本レポートはバックアップ電源(安定電源)の犠牲が前提で記載されている。

太陽光・風力は最小限の運転コストしかかからないため、既存の安定電源は劣後的な扱いになる。既にデンマーク、ドイツなど太陽光・風力が大きな割合になった国では、火力とりわけ石炭火力の運転はフレキシブルな扱いになっている。

○安定電源が不安定電源に劣後する扱いになるということ自体がおかしい。太陽光・風力の運転コストは低いが設備投資コスト(資本コスト)が議論されていないことや電力系統全体に新たに発生するシステムコストが比較検討の対象なっていない。

 (3)過剰設備が避けられないことがレポートに明文化されていない。

450シナリオ」には、EU、日本などに関しての重要な情報(2040年の発電設備量(平均需要(kW)に対する各発電設備の割合)が記載されているが、図のみ記載され、本文での説明はなされていない。

○2040年時点でのEU、日本の発電設備容量が共に平均需要(kW)の3.4倍となっている。しかし、実社会ではこのような過剰設備を持つ業界はそのままでは生き残れない。

  (4)蓄電池とデマンド・レスポンスの有用性に関する説明は記載されている。

○太陽光・風力の発電設備容量が25%以上になった時の具体的な対策になっていない。

  (5)送配電網設備投資に関する記載がある。

○「450シナリオ」では7.2兆ドルの新規投資が必要と記載されているが、これは発電設備新規投資額の45%強に相当する額になり、実現性が低いものである。

  (6)2040年まで続く政府援助(固定価格買取制度FITなど)が前提とされている。

○膨大な金額であり、非現実的である。

 

 2.3 パートⅢ;「シェール資源の限度」

本レポートには世界の在来型既存油田からの原油生産量見通し(6,830万バレル/日(2015年)→2,280万バレル/日(2040年))、コンピューター解析による米国シェールオイルの生産見通し、米国シェールガス生産見通しなどが記載されている。

○太宗を占める在来型油田からの生産量が2040年に1/3になることは、人口増、経済成長が予測される世界にとって脅威である。

○これから開発される油田の条件はますます悪くなり、これから発見される油田の規模は小さくなる。非在来型資源(米国シェールオイル、カナダ超重質ピチューメンなど)の生産量も限られている。2040年〜2050年あるいはそれより早期の石油危機が予想される。

○米国シェールオイルの増産余地は200万バレル/日(430万→610万バレル)と予想されており、これは世界の生産量の3%程度に過ぎない。

○米国シェールガスの増産余地は2,300億立方米(4,300億立方米→6,600億立方米)と予想されており、これは世界の生産量の6%程度に過ぎない。             以上